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第11回 変形・地下水・熱の連成問題(その2)
前回は、温度変化が地下水流れや地盤変形に及ぼす影響を調べてみました。特に温度変化と地下水流れの相互作用は興味深いものでした。今回は、温度が0℃以下となって地下水が凍結した場合に生ずる地盤の変形や地下水流れの変化を見て行きたいと思います。
最初に、これまで説明してきました陽解法に、凍結の効果を組み入れる手法の概略を説明します。詳しくは、「変形・地下水・熱の連成問題に関する支配方程式と陽解法」をご覧ください。
いま、地盤の温度が0℃となり、さらに冷却によって単位時間に単位体積あたりΔQの熱量が奪われていく場合について考えます。ΔQのうち、μの割合が水が氷る際の潜熱Qlにより消費され、残りが地盤の温度変化に寄与すると仮定します。このときの熱移動の支配方程式は次式となります。
ΔQを使って書くと、次のとおりです。
ここに、Tは地盤の温度、qは熱伝導による熱流束、Cvは地盤の単位体積あたりの熱容量(体積熱容量)、Cvwは間隙水の単位体積あたりの熱容量、viは間隙水の平均流速です。
この変化が 時間継続し、凍結終了温度Tfまで温度が変化し、その後は潜熱の影響は無くなると考えます。この間の温度変化は、次式で求められます。
他方、潜熱分が全て消費される時間は、次のとおりです。
これらの式より、潜熱に消費される割合μは次のように求められます。
したがって、実験によりTfを求めることができれば、μを定めることができます。
なお、地盤の潜熱は水分量の変化を考慮し、次のように求められます。
ここに、Qlsは単位体積あたりの水の潜熱です。
また、凍結膨張ひずみεfは、飽和時におけるその最大値εf0に対して、潜熱に消費された熱量と潜熱の割合で生ずることと仮定します。
式(1)と同様の形に書き直すと次式となります。
一方、構成方程式では凍結膨張ひずみを考慮します。
ここに、σmは平均応力、Kdは排水条件で計測された地盤の体積弾性定数、εviは非弾性体積ひずみ、ηは地盤の熱膨張率、εfは凍結膨張ひずみである。
凍結を考慮した支配方程式についても、解法は前回までに説明したとおりです。式(1)や式(8)では、温度や凍結ひずみを既知の値を用いた陽解法で求めます。
ここに、[B]は勾配マトリクスです。
変形や間隙水圧変化は、動的陽解法を組み合わせて解きます。
ここに、{q}、{θ}、{v}は節点での熱流束、温度勾配、間隙水の平均流速であり、それぞれ節点を取り囲む要素の温度勾配や間隙水圧の勾配より求められます。また、ρw,nodは節点での密度あり、節点を囲む要素の値を要素体積の重みを付けて平均した値とします。
なお、間隙水の密度はKwとξが一定と近似して次のようにして求めることとします。
ここに、ρw0、φ0、T0は、それぞれt=0のときの間隙水の密度、間隙水圧、温度です。
それでは、凍結を考慮した解析例をご紹介します。解析モデルは図-1に示すもので、モデルの右から左へと地下水が流れているところに、-20°に保たれた細長い領域が出現するという設定です。物性値は表-1に一覧します。なお、0℃以下となり凍結を開始した地盤では、透水係数が1/100になると仮定しました。
最初に凍結膨張を考慮しない場合の解析結果を、動画-1から動画-4に示します。動画-1が温度分布の変化で、凍結領域が拡大して行くことがわかります。凍結領域では透水性が低下するため地下水の流れが阻害され(動画-2)、凍結領域の上流側では間隙水圧が増加し、下流側では間隙水圧は減少します(動画-3)。この結果、凍結領域の上流側で膨張、下流側で収縮の変形が生じ、上流側の地盤が凍結領域を押す形となります(動画-4)。
凍結膨張を加えた場合の変形は、動画-5のようになります。凍結領域での膨張変形が支配的となることがわかります。
これまで説明してきました連成解析では、静的な変形を対象としてきました。次回は、変形と地下水流れの連成解析を動的問題として解いてみることにします。