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第9回 変形と地下水流れの連成問題(その2)
今回は、変形と地下水流れの連成問題の特徴を、斜面とトンネルの解析を例にとって説明します。
まず、斜面の連成解析です。斜面の連成解析で最初に直面する問題は、初期状態をどのように設定するかです。水平な表面を持つ地盤では、地盤深度方向に向かって増加する有効応力分布と、同じく深度方向に向かって増加する間隙水圧分布を仮定し、これが水平方向に均等に分布するとして初期状態と見なすことができます。しかし、斜面では自重を加えて計算してみないと応力分布はわかりません。また、仮に間隙水圧分布を設定しても自重を加えると間隙水圧分布が変化してしまいます。
そこで、地下水で飽和した斜面形状の地盤に対し、非排水条件で自重を加えて応力や間隙水圧を定め、次に地下水を流して境界条件と整合する間隙水圧分布を求めることとしました。
実際に解析した結果を以下に示します。図-1が解析モデルと境界条件、表-1が用いた物性値です。なお、不飽和状態での間隙水圧と飽和度および相対透過率の関係には、van Genuchten(VG)モデルを適用しました。
また、不飽和状態での空隙弾性定数Kbは、
ですが、式(1)から
となることからVGモデルにより値を定めることができます。
ただし、ここではKbに大きな値を用い、不飽和領域での間隙水圧変化が速く生ずるようにし、計算時間を短縮しました。
解析結果は動画で示します。飽和した地盤に非排水条件で自重を加えると、自重による全応力状態が定まるとともに、平均応力・間隙水圧比βで定まる分だけ間隙水圧が発生します。続いて境界条件に見合うまで間隙水圧が減少し、最終的に、設定した境界条件のもとで定まる初期応力・初期間隙水圧分布が求まります。この間、地盤は圧密変形のように挙動し最終変形に達します。なお、地表面は流出だけを許す特殊な境界としています。
次に降雨時の解析を行いました。降雨を表現するため、多少強引ですが地表面部の間隙水圧を0にします。地表面付近は不飽和領域のため地表面から下向きの流れが発生します。この結果、地下水面は上昇していくのですが、動画-6からわかるように、法尻付近で最も早く水面が上昇します。変形を見ると、最初は水の侵入により地表面付近の重量が増加し、斜面全体が沈下する傾向にありますが、地下水面の上昇とともに斜面が膨張する方向の変位となります。膨張変位は、水位上昇が速い法尻付近が大きくなります。このような膨張変形は法尻部の不安定化に影響を及ぼす可能性があります。
もう一つの例はトンネル掘削です。これもまた強引な条件ですが、トンネルを無支保で瞬時に掘削し、その後の変化を調べたものです。
解析結果を動画-8~動画-11でご覧ください。トンネル掘削に伴う瞬時変形により間隙水圧分布が変化した後、トンネル壁面から地下水が流出し、間隙水圧の変化が地盤内部へ進展していくことがわかります。トンネル壁面の変形や応力状態は、掘削時の状態からあまり変化しません。
次回は、変形と地下水流れの連成問題に、さらに温度の影響も加えてみます。