技術資料

Feel&Think

岩石のひずみ測定とゲージ長

担当:木下 直人
2000.09

岩石や岩盤にかかわる試験において,ひずみを測定したい場合,最も多く用いられているのは,抵抗線ひずみゲージです。例えば,一軸圧縮試験時にひずみを測定したい場合,供試体の高さ中央付近に縦,横方向それぞれ2枚ずつ抵抗線ひずみゲージを貼付して縦ひずみおよび横ひずみを測定するのが一般的です。

ひずみゲージを使用する場合,私は,できるだけゲージ長の長いものを用いるように心がけていました。それは,ゲージ長が短いと,岩石によっては,個々の鉱物粒子およびその境界の物性の違いの影響を受けて,岩石としての平均的なひずみの値が得られない恐れがあるからです。実際に、ひずみの測定値に対するゲージ長の影響を調べてみたことがありますので、その例を以下に記します。

鉱物粒子の粒径の異なる2種類の岩石について,ゲージ長5mmと30mmのひずみゲージを貼付して,温度変化に伴うひずみを測定してみました。2種類の岩石としては,稲田花崗岩(茨城県産)と三城目安山岩(福島県産)を用いました。稲田花崗岩は,石英,斜長石,微斜長石,黒雲母,角閃石といった鉱物から構成されており,その平均粒径を測定したところ,約2.8mmでした。石英や斜長石のなかには5mmを超す粒径のものも含まれています。一方,三城目安山岩は,斜長石,単斜輝石,クリストバライト,安山岩質ガラスなどからなり,斑晶部分(斑状組織を呈する岩石において,石基とよばれる細粒またはガラス質の部分の中に存在する際だって大きな結晶の部分)の粒径は平均約0.8mm,最大でも2.0mm程度でした。

板状の供試体の表面にゲージ長5mmと30mmのひずみゲージをそれぞれ4~6枚ずつ貼付した後,恒温槽の中に設置し,供試体全体ができるだけ一様な温度になるように,ゆっくりとした速度で温度を上昇させ,それに伴う各ゲージのひずみ指示値の変化を測定しました。その結果は図-1のようになりました。

図-1 温度変化に伴う2種類の岩石のひずみ変化測定例

4~6枚のゲージの内の,最大値と最小値を示したゲージについての測定結果だけを示していますので,結局測定値のばらつきの範囲を示していることになります。粒径の小さい三城目安山岩では,どちらの場合もばらつきが小さくなっているのに対して,粒径の大きい稲田花崗岩では,ゲージ長が5mmの場合だけ大きくばらついていることがわかります。

図-2 温度変化に伴う花崗岩の鋼材のひずみ変化測定例

また,図-2は,ゲージ長6mmと10mmのゲージを稲田花崗岩に貼付して,同じように温度低下に伴うひずみ指示値の変化を測定したものです。比較のために鋼材にもゲージ長6mmのゲージを貼付しています。鋼材に貼付した場合は、ばらつきが非常に小さく、全ての測定値がほぼ同じ値を示しています。それに対して、花崗岩に貼付した場合は、どちらも、測定値が 大きくばらついています。

岩石を構成している鉱物の熱膨張率はそれぞれ異なっています。したがって、個々の鉱物粒子の 粒径と同じかまたは少し大きい程度のひずみゲージを用いた場合(稲田花崗岩に5mmおよび10mmのひずみゲージを貼付した場合がそれに該当)、鉱物粒子による熱膨張率の違いの影響を受けて、測定値が大きくばらついてしまうと考えられます。また、花崗岩の場合、主として鉱物粒子の境界に微小クラックが存在しており、ひずみゲージの貼付位置に微小クラックが存在するか否かによっても、測定値は大きく異なると考えられます。岩石に何らかの応力が作用したときのひずみの変化も基本的には同じであり、鉱物粒子の熱膨張率の代わりに弾性定数の違いの影響を受けることになります。微小クラックの影響は、温度変化の場合よりも大きい可能性があります(特に低応力状態)。

以上の実験結果から、岩石を構成する鉱物粒子の粒径が小さい場合には、ゲージ長を気にする必要はありませんが、粒径が大きい場合には、ゲージ長が短いと岩石としての平均的なひずみの値が得られない恐れがあることがわかります。例えば、稲田花崗岩のように粒径が5mmを超す鉱物が含まれている岩石では、10mm以下のゲージ長ではばらつきが大きくなってしまうので、少なくとも20mm、できれば30mmのゲージ長のものを用いる必要があると考えられます。どうしても10mm程度の短いゲージ長のものを用いなければならない場合は、可能な限り多くの枚数のひずみゲージを貼付してその平均値を用いる等の工夫が必要になると考えられます。

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