技術資料
Feel&Think
第12回 Geo-Stickを用いた計測例
地層科学研究所では、事務所内にGeo-Stickを設置して計測を行っています。本シリーズの最終回として、実際に計測されたデータをもとに、距離減衰式を用いた近隣想定断層地震時の揺れの推定結果などをご覧いただきます。
Geo-Stick本体は13gと軽量であり、建物の床や壁、天井などに両面テープなどでも簡単に設置できます。また、地震時の建物の振動で共振することはありません。写真-1は、実際に設置して計測している状況を示しています。
図-1は2018年1月6日0時54分に事務所の5階床で計測された加速度時刻歴データです。データには数gal程度のノイズが見られますが、地震による建物の揺れは確実に捉えています。
図-2は、計測された水平成分の加速度時刻歴データより求めたスペクトル、図-3は同じく振動中のランニングスペクトルです。一般的な鉄骨造ビルの場合、その固有周期T(秒)は、階数をNとすればおおむねT=0.1N 、高さをH(m)とするとおおむねT=0.02~0.03×Hであるといわれています。計測しているビルは5階建ての鉄骨造であり、固有周期は0.5~0.6秒と推定されます。スペクトルの卓越周期は0.5秒前後であり、これは計測しているビルの(1次)固有周期を表していると考えられます。
この揺れを引き起こした地震に関しては震源が特定され、K-NETの各計測点では最大加速度や計測震度などが公開されています。図-4には、事務所最寄りの3カ所の観測点についてこれらの値を示すとともに、事務所のGeo-Stickで得られた値も示しました。K-NETの観測点で計測された値に比べ、最大加速度、計測震度ともにGeo-Stickの値が上回っていますが、これはK-NETが地表面での値であるのに対し、Geo-Stickの値が事務所5階の値であるからです。地表面の2倍程度の最大加速度が計測され、揺れが増幅されていることがわかります。
事務所の近隣では、幾つかの地震発生断層が想定されています。これらに関しては、J-SHISマップに位置や形状、地震時の想定マグニチュードが示されています。J-SHISとは、Japan Seismic Hazard Information Stationの略称で、K-NETと同じく国立研究開発法人防災科学技術研究所が運営するWebサイトです。
事務所に近い3つの想定断層について、位置を図-5に示します。また、想定されているマグニチュードや事務所との距離、これらと距離減衰式より求まる理論最大加速度を表-1にまとめました。これまでの幾つかの地震時における計測データから、理論最大加速度の2.89倍の最大加速度が計測されていることがわかっています(図-6)。それぞれの想定地震断層について得られた理論最大加速度を2.89倍して得た値が、表-1に示した推定最大加速度です。このようにして、Geo-Stick設置場所における、近隣想定断層による地震時の推定最大加速度が推定できます。
本シリーズでは、Geo-Stickを設置することにより建物の固有周期や最大層間変形角、地盤の性状、近隣想定断層地震時の最大加速度などを推定できることを示しました。まさに、「地震の揺れは情報源」であると考えます。まずは、Geo-Stickを設置することから始めてみませんか。