技術資料
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第10回 最大層間変形角の概算
今回は、建物にGeo-Stickが設置されている場合に、地震時に建物の健全性を評価する上で重要な最大層間変形角の求め方について検討します。
最大層間変形角とは、地震により発生した振動中における、床と天井との最大の変形差を階高で除した値です。この変形差を直接計測するためには、天井から床に向けて垂直に下した棒の先に筆記具を付け、床においた用紙に軌跡を記録する方法があります。筆記具の代わりレーザ光を用いる方法も考案されています。いずれにしても大がかりなものとなり、地震のたびに記録用紙を交換するのも大変です。
床と天井にGeo-Stickが設置されていれば、得られた加速度時刻歴データを積分してそれぞれの変形を求め、この差の最大値を求める方法が考えられます。しかし、加速度時刻歴データは100Hzといった離散データであるうえ、様々なノイズを含むことから、適切なフィルタ処理を行わなければなりません。また、各Geo-Stickは時刻同期が取れていることや、建物での最大層間変形角の最大値を求めるために、全階にGeo-Stickが設置されている必要があります。
そこで、Geo-Stickで得られた加速度データだけから、各階における最大層間変形角を推定する方法を検討しました。建物は弾性的に挙動し、各階の剛性や重量が同じであり、減衰が無く、各階で最大加速度が同時に同方向に生じたことを前提とする概算値です。
次図のような、振動中の3階建の建物を考えます。
これを減衰の無い3質点系でモデル化した場合には、各階の質量をm、層間の剛性をk、各階の変形をx、各階で計測された加速度を a として、次のような運動方程式が得られます。
ここで、 、 と近似できると仮定すると、各層間の固有周期をT()として各式は次のようになります。
これらより、各階の層間変形として次式が得られます。
このように、各階の層間変形はそれより上の階で求めたの値を合算した値となります。これは、各階の剛性と重量が同じと見なした場合には何階建てでも成立することから、n階建ての l 階における層間変形 δl の概算値が次のように求まります。
また、各階の階高をHとして層間変形角θl は次式となります。ai として各階で計測された最大加速度を用いることで、各階の最大層間変形角の概算値が得られます。
1階あたりの固有周期Tは、建物全体の(1次の)固有周期Tpより推定することとします。剛性と重量が同じの多質点系モデルで計算してみると、建物の階数が増えると建物全体の固有周期Tpは、下図のように(1階あたりの固有周期×階数n)の約70%に漸近することがわかります。このことから、Tpを階数nで除して、さらに0.7で除せば、1階あたりの固有周期の推定値が求まります。
建物全体の固有周期Tpは、最上階と最下階に設置したGeo-Stickで計測された加速度時刻歴データを用い求められた、スペクトル比の最大値を与える周期を用います。
このように、建物に設置したGeo-Stickの計測データから最大層間変形角の概算値を得ることができます。建物の全ての階にGeo-Stickが設置されていない場合は、設置されていない階の最大加速度aの値を、上下の階の値から補間や外挿により推定し、式(11)より概算値を求めます。
次回は、この概算値の妥当性を実験により調べます。