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第9回 全K-NET地点のH/Vスペクトル比
前回までに、H/Vスペクトル比が周期1秒前後で最大値を示す地盤では、表層部にS波速度が小さい層が厚く存在する可能性が高いことを示しました。これを、全K-NET観測点でのデータを用い検証してみました。用いたのは、第7回にご紹介したソフトウェアです。手順は次のとおりです。
まず、K-NETの各観測点で、震源が半径100km以内に存在する地震のうち、マグニチュードが大きい上位20個の地震を選びます。それぞれで得られた3成分の加速度時刻歴データは、それぞれについて振幅スペクトルを求めた後、0.4HzのParzon窓関数により平滑化を施し、次のようにH/Vスペクトル比を求めます。
![数式](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_00.png)
EW:東西方向のスペクトル、NS:南北方向のスペクトル、UD:鉛直方向のスペクトル
次に、周期1秒におけるH/Vスペクトル比の値(A1)を求め、20個の地震での平均値を算定します。H/Vスペクトル比の最大値を示す周期が1秒に近いほど、A1の値は大きくなります。これを表-1に示す5段階で色分けし、地図上でK-NETの各観測点の位置に〇印で表示しました。
結果を見ると、沖積層が厚く分布する平野部で明らかにA1の値が大きくなっていることがわかります。逆に山間部ではA1の値が小さくなっています。このことは、A1が表層部の地盤の性状を表す指標となり得ることを示唆しています。Geo-Stickが建物の1階に設置されていれば、A1の値が大きい、あるいはH/Vスペクトル比のピークが1秒近辺にあることを手掛かりに、地盤の性状や液状化の可能性を検討することができそうです。地層科学研究所では、データを積み重ねて、H/Vスペクトル比と地盤の性状との関係を明らかにしていく所存です。
![表-1 A1の大きさと色分け](/wp/wp-content/uploads/2023/08/eq09_12.jpg)
![図-1 H/Vスペクトル比とA1の値](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_01.png)
(以下の出典)K-NET:国立研究開発法人防災科学技術研究所の全国強震観測網
![図-2 関東地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_02.jpg)
![図-3 東海地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_03.jpg)
![図-4 関西・中国・四国地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_04.jpg)
![図-5 中国・四国・九州地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_05.jpg)
![図-6 四国・九州地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_06.jpg)
![図-7 北陸・東北地域におけるA1の分布](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_07.jpg)
![図-8 東北地域におけるA1の分布(1)](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_08.jpg)
![図-9 東北地域におけるA1の分布(2)](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_09.jpg)
![図-10 北海道地域におけるA1の分布(1)](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_10.jpg)
![図-11 北海道地域におけるA1の分布(2)](/wp/wp-content/uploads/2023/07/eq09_11.jpg)