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第6回 H/Vスペクトル比
今回からは視点を変えて、地震時に地表面に設置されたセンサにより得られた、3成分の加速度時刻歴データよりH/Vスペクトル比を求め、これをもとに地盤の性状を評価する方法を検討していきます。
H/Vスペクトル比とは、水平成分の加速度時刻歴データより求めた振幅スペクトルと、鉛直成分の振幅スペクトルとの比を表しており、これより地盤の液状化しやすさなどを評価する方法が、中村により提案されています。中村2),4)によれば、H/Vスペクトル比が最大値を示す周期Tpは表層地盤の固有周期、最大値Apはその増幅倍率の推定値とされています。これは、「軟弱な地盤では水平動が上下動に較べて大きく、堅固な地盤では水平動と上下動が同程度の振幅で波形特性も類似している」との観測事実に基づいています3)。
中村は、表層地盤の厚さの推定値も提案しています。上図のように、比較的堅固な基盤の上に、軟らかい表層地盤がのっている2層構造を考えます。表層地盤のS波速度vsが一様であれば、その厚さhは次のように求まります。
vsは地盤により大きくばらつきますが、基盤層のS波速度vbは、これに比べて場所を問わず一定であると考えられます。また、表層地盤の増幅倍率は、表層地盤と基盤のインピーダンス比に等しいと近似できます。
基盤と表層地盤の密度の比を1と見なせば、
となり、表層地盤の厚さの推定値が求まります。
中村は、vb=600m/sとすることで実測値と良い一致が見られるとしています。
さらに、中村は地盤の変形しやすさに関する指標も示しています1)。まず、表層地盤の平均的なせん断ひずみγを、基盤と地表面の相対変位を表層地盤の厚さhで除したもので近似します。
ここに、δは基盤の変位振幅です。いま、表層地盤の固有周期Tpに一致する卓越周期を持つ地震が発生した場合を考えると、δは基盤の加速度をaとして次のように求まります。
式(4)と式(6)を式(5)に代入すれば、せん断ひずみの大きさが求まります。
ApとTpは表層地盤の特性値であることから、
を表層地盤の変形しやすさの指標とすることができます。中村は、Kがある値以上で地盤の液状化が発生する事例を示しており、K値は液状化の可能性を評価する指標となり得ることが示唆されています。
Geo-Stickのデータを用いた地震と建物のモニタリングサービスでは、H/Vスペクトル比を算定し、地盤の液状化の可能性などを評価するための資料としてお客様にご提供します。
参考文献
1)中村豊,滝沢太郎:常時微動を用いた地盤の液状化予測,土木学会第45回年次学術講演会,I-159,pp.1068-1069,1990.
2)中村豊:H/V スペクトル比の基本構造,物理探査学会第3回地震防災シンポジウム「微動と地震防災」,2008.
3)澤田義博:常時微動H/Vスペクトル比の特性とこれを用いた地震増幅特性の簡易推定法,物理探査,Vol.61,No.6,pp.511-522,2008.
4)齋田淳,中村豊,佐藤勉:事前常時微動測定の結果からみた東北地方太平洋沖地震の液状化被害, 第8回日本地震工学会大会-2011梗概集,2011.