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第4回 中小地震から大地震の揺れを推定

担当:里 優
2019.04

今回は、距離減衰式を用いた大地震時の揺れの推定方法について、防災科学技術研究所のK-NETの計測データを用いて、その妥当性を検討しました。対象とした地震は、過去に発生した大地震です。

大地震時の揺れの推定では、まずセンサ設置位置において、距離減衰式による理論最大加速度と計測最大加速度との相関図を描き、回帰直線を求めて、この傾きを理論最大加速度に対する計測最大加速度の倍率とします。次に、近隣の想定震源断層(活断層帯)を調べ、これによる地震発生時の最大加速度の推定値を求めます。推定値は、センサ設置位置と想定震源断層の距離や想定マグニチュードから、距離減衰式により理論最大加速度を求め、これに倍率を乗じた値とします。

この方法論の妥当性を、防災科学技術研究所のK-NETの計測データを用いて検討しました。K-NETでは、自由地盤上に設置された地震計で計測が行われています。

最初に、プレート型ではないと考えられる過去の大地震を選び、この地震で最も大きな最大加速度が観測されたK-NETの観測点を調べました。この観測点における計測データのうち、大地震時のものを除く、比較的小さな加速度が計測された地震時のデータを用い、理論最大加速度と計測最大加速度の相関図を描き回帰式を求めました。これを、想定震源断層以外の震源により発生した、中小地震についての回帰式と仮定しました。なお、回帰式を求めるためのデータは、震源距離が200km以下のものとしました。

次に、選んだ大地震について、観測点と震源の距離、マグニチュードを用いて理論最大加速度を求め、このときの計測最大加速度に対して相関図上にプロットしました。これを、想定震源断層による大地震時のプロットと見なすこととしました。

仮に、ここで検討している方法が妥当なものであれば、大地震時のプロットは回帰直線の近傍に打たれるはずです。言い換えれば、大地震時の計測最大加速度は、その理論最大加速度に回帰直線の傾きである倍率を乗じた値に近いはずです。

検討対象とした大地震は、次のとおりです。なお、Mは気象庁マグニチュードです。結果を以下の図に示します。

①2000年10月6日 鳥取県西部地震(M7.3)
②2004年10月23日 新潟県中越地震(M6.8)
③2005年3月20日 福岡県西方沖地震(M7.0)

④2007年3月25日 能登半島地震(M6.9)
⑤2007年7月16日 新潟県中越沖地震(M6.8)
⑥2011年3月12日 長野県北部地震(M6.7)

左:TTR007(江府)、右:ISK006(富来)の相関図グラフ
左:NIG021(十日町)、右:NIG018(柏崎)の相関図グラフ
左:NGS001(平戸)、右:NIG023(津南)の相関図グラフ

図を見ると、中越地震の十日町と中越沖地震の柏崎では、推定値を超える大きな加速度が計測されていますが、それ以外は大地震についてのプロットが回帰直線に近い場所にあり、推定値と実測値が近いことが示されています。このことは、ここで用いている方法が妥当であることが示されていると考えます。

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