技術資料
Feel&Think
第1回 変形と地下水流れの連成解析
私たちの仕事の中心となる、トンネル掘削や地すべりのシミュレーションでは、地下水流れと変形の相互作用を考慮できる連成解析が有効です。連成解析により、トンネル掘削に伴う湧水量や地表沈下を予測したり、地下水排除工による地すべり変形の抑制効果などを検討することができるからです。
一方で、地下水流れの解析のためには、分水界を境界とする必要があるため、トンネル径や地すべり範囲に比べてはるかに広い領域が対象となります。このため、解析に用いるメッシュの節点数が大きくなることで、計算時間が長くなってしまう課題があります。
もとより、変形と地下水の連成解析は自由度が大きく、時間方向にも多くの解析ステップが必要となります。
- 地下水流れと変形を別々に解く → 疑似連成解析
- 排水構造物をメッシュ化しない → 仮想ドレーンモデル
以下、数回に分けてこれらの手法を説明していきます。
過去のFeel&Thinkでは、何回か変形と地下水の関係式に触れましたが、今回は復習のために、Biotの研究に代表される間隙弾性論を再度紹介することとします。これまでと同時に、対象は等方弾性体で透水性も等方であることを前提とします。
間隙弾性論では、地盤の体積ひずみ εv は平均応力 σm と間隙水圧 p により変化すると考えます。なお、応力とひずみ、間隙水圧は圧縮を負とします。

ここに、K は排水条件(Δp = 0 )での等方応力載荷実験で得られる体積弾性定数であり、Δ は任意の初期値からの増分を表すこととします。
H は、応力変化が無い状態(Δσm=0)で、間隙水圧を変化させた場合の体積ひずみの大きさを規定する実験定数です。

α を次のように定義すれば、

式(1)は以下のように記述できます。

式(8)は、いわゆる有効応力則であり、α は有効応力係数とも呼ばれます。
α の物理的な意味を調べるため、特殊な状態として、平均応力と間隙水圧を同じ大きさで変化させた場合を考えてみます。このような載荷状態を Π 載荷と呼ぶこととします。このとき、体積ひずみの大きさは次のように表わすことができます。

このような状態で生ずる体積ひずみは、地盤を構成する粒子の変形に他なりません。したがって、粒子の体積弾性定数を Ks として、前式は次のように書くことができます。

したがって、α は次式で表すこともできます。

間隙弾性論では、平均応力や間隙水圧が変化することで生じた間隙水の体積変化(単位体積中を出入りした間隙水の体積)を Δζ とすると、次式が成り立つと考えます。なお、間隙水の排出を正とします。

ここに、R はBiotにより導入された間隙弾性定数であり、平均応力を変化させずに(Δσm=0)間隙水圧を変化させた場合の、出入りした間隙水の体積を規定する定数です。
一方 H は、間隙水圧を変化させずに(Δp = 0 )平均応力を変化させた場合の、出入りした間隙水の体積を規定する定数ですが、式(1)に示すとおり、平均応力変化が無い状態で、間隙水圧を変化させた場合の体積ひずみの大きさを規定する定数でもあります。
このように間隙弾性論では、間隙水圧を変化させずに平均応力を変化させた場合の、出入りした間隙水の体積と、平均応力変化が無い状態で間隙水圧を変化させた場合の体積ひずみは等しいと考えます。このことは、これら二つの場合の弾性ポテンシャルエネルギーが等しいことに基づき証明がされています。
間隙水の出入りを禁止した場合(Δζ=0)には、次式が得られます。

式中の B は、スケンプトン定数と呼ばれるもので、間隙水の移動を禁止した(非排水)条件での、平均応力変化に対する間隙水圧変化の大きさを規定する実験定数です。B は 1~0 の値を取ります。
次に、次式を計測可能な実験定数 K、α、B で記述してみます。

まず、R と H を書き換えます。

であることから、次式が得られます。

有効応力則を考慮すれば、

最終的に次式が得られます。

ここで、貯留係数に相当する M を新たに導入すれば、

と書くことができます。
これまで示したとおり、Biotの研究では次の2式が基本となっており、

最終的には、実験可能な定数を用いて次のように記述することができました。


さらに、単位体積中を出入りした間隙水の体積 Δζ は、間隙水の流れがダルシー則に従うと仮定して次式で与えられます。なお、この場合の Δ は単位時間あたりの増分を表します。

ここに、k は透水係数です。
したがって、間隙水の連続式として次式が得られます。

他方、せん断成分も含めた構成方程式は、次のようになります。

さらに、平衡方程式

と変位-ひずみ関係

を考慮すれば、最終的に解くべき方程式が得られます。

ここに、C は弾性定数マトリックスです。
式(19)と式(25)を連立させて解くのが、変形と地下水流れの連成解析と呼ばれる解析手法です。
式に現れるスケンプトンの B 値や α はどのような値でしょうか。精密な三軸圧縮試験装置を用い、間隙水圧を制御して行われた実験結果が論文1)で紹介されています。このような実験が行われるのは稀で、貴重なデータが提供されていると考えます。

実験結果の一覧表1)

実験結果をみると、B値は岩石で 0.5 から 0.9 程度、α は 0.5 から 1 の間にあります。α は、硬岩で小さな値となりますが、これは次のような理由によるものです。
α は、

と考えましたが、岩石構成鉱物粒子の体積弾性定数 Ks は 40~50GPa と非常に高いものです。空隙の存在も考慮されている岩石全体の平均的な体積弾性定数 K は、軟岩であれば実験では1GPa 程度であり、上式によれば α は 0.98 ほどになります。硬岩ともなると、岩石全体の平均的な体積弾性定数 K は 25GPa にもなり、この場合 α は 0.5 ほどになります。実験結果と上式は整合的です。
このような実験結果をもとに、次回以降に紹介する解析では、軟岩相当の B=0.8、α=1.0 を使うことにします。次回は、典型的な連成現象である圧密問題を紹介します。
参考文献
1)宮澤 他:幌延地域に分布する珪質岩を対象とした間隙弾性パラメータの取得と室内試験法の提案,Journal of MMIJ Vol.137 p.132-138(2011).