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第1回 AIとは?
新しいシリーズでは、発展が著しいAIを地盤防災や地下環境保全など地層科学の分野へ応用していく道筋を探ります。AIの応用は、技術者に新しい視点からの情報を提供することで、これまでは考えられなかった技術の高度化を促すことが期待できます。
本シリーズでは、最初にAIの概念と歴史を紹介し、機械学習や深層学習の方法論やこれを用いた事例を紹介した後に、地層科学の分野への応用を試みます。
その前に、昨年2022年は、AI分野において非常に革新的な年になりました。その中でも、特筆すべきは生成系のAI技術の進化であり、代表的なものとして「Stable Diffusion」が挙げられます。この技術は、任意のテキストから画像を生成することができるGenerative AIのモデルであり、オープンソースとして提供されたこともあり、多くの注目を集めました。同じような画像生成モデルとして、OpenAIの「DALL・E 2」やGoogleの「Imagen」、ミッドジャーニー社の「Midjourney」などがあります。
また、自然言語処理の分野でも、OpenAIが開発した「ChatGPT」は現在も驚異的な速度で、注目を集めています。この大規模なモデルは、数億ものテキストデータを学習し、自然言語での会話や質問応答などのタスクに利用され、日本語や英語などの多くの言語を理解しています。更に、ユーザーの言葉遣いや表現に合わせて応答を調整し、自然なコミュニケーションを実現することができるので、人間との会話に近い体験ができます。
これらの技術の詳細な仕組みは、あらためて別の機会に詳しく説明したいと思います。AIの分野における昨年の進化は、未来への期待感を高めるものであり、今後の技術の発展にも大きな影響を与えるものであることは間違いありません。これからも注視していきたいと思います。
さて、今回は、第1回目としてAIとは何かについて説明します。
AI(Artificial Intelligence)とは、日本語では「人工知能」と訳されています。この定義は、Wikipediaによると“「計算(computation) 」という概念を「コンピューター(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算幾何学(computer science)の一分野。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術”とあります。さらに、人工知能学会のホームページでは、「まるで人間のようにふるまう機械を想像するのではないでしょうか?これは正しいとも、間違っているとも言えます」とあります。
人工知能学会の問いかけは、人工知能の研究には2つの立場があるといわれています。一つは、人間の知能そのものを持つ機械を作ろうとする立場(汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence))と、もう一つはWikipediaと同じように人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場です。最近の人工知能の研究のほとんどが後者の立場に立っています。ただし、後者の立場においても、AIについてのはっきりとした定義はなく、有識者の間でもその定義の違いはあります(表 1)。
AIは、近年ますます身近になってきています。例えば、自動車の自動運転については、よくネットやニュースなどで見聞きするのではないでしょうか?現在の自動運転技術は、レベル5(完全自動運転)のうちレベル4(特定条件化における完全自動運転)まできていて着実に実用化が進んでいます。そのほかにも、スマホ・ネットで使用する検索エンジンや自動翻訳、SiriやAlexaなどのスマートスピーカー、ルンバなどの家電製品についても複数のAIの技術が組み込まれています(図 1)。
では、先ほどの自動運転技術には、どのような技術が使用されているでしょう?
- 車両の現在位置を正確に特定するための「位置特定技術」
- 自動車や歩行者、障碍者などを検知・認識するための「認識技術」
- 運転操作などを判断するための「学習技術」
- 事故リスクや危険可能性を算出するための「予測技術」
- 状況に応じて走行ルートを決定するための「プランニング技術」
- 運転手の状況を監視するための「モニタリング技術」
- 車車通信や路者間通信、インフォテイメント向けの「通信技術」
など、様々な最先端の技術が使用され、中でもAIの技術として代表的な「物体認識技術」、「画像認識技術」、「SLAM技術」があります。
また、2050年に日本が目指す未来像として、内閣府が掲げる「ムーンショット目標」というものがあります。「ムーンショット目標」とは、全人未踏で非常に困難だけれども、達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む壮大な計画や挑戦のことです。その「ムーンショット目標」の中で、「地層科学」に直接的あるいは間接的に関係する目標があります。それは、目標3の「AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」です。
目標3については、題名から考えるとあまり関係がなさそうに感じますが、その内容の一部に、「自然災害(河道閉塞)の減災や月面インフラ構築にも役立つ、想定と異なる状況に対して臨機応変に対応する複数台の協働AIロボットのシステムのロトタイプを開発する」とあり、自然災害に対して迅速な対応が可能なAIロボットの開発が進められています(図 2)。
このように、AIの研究は、猛烈なスピードで行われ、またその社会実装も着実に進んでいます。本シリーズは、「地層科学」におけるAIの社会実装例はもとより、そのほかの最先端の社会実装例についても触れていきたいと思います。
第2回は、AIの歴史についてご説明します。
参考資料
・国土交通省「自動運転のレベル分けについて」
・内閣府/ムーンショット型研究開発制度
※上記コラムのWebサイト最終参照日は2023年4月