やわらかサイエンス

生命の元素リン ~ 遺伝子から地層まで ~(後編)

第125回担当:藤原 靖(2021.06)

リンは生命の元素ですが、非常に特殊な地層にしか多く存在しておらず、資源としてのリン鉱石は世界的に大きく偏っています。また我が国では全て輸入に頼っています。あまり注目されないリン資源ですが、資源としての限界が危惧されています。


- リン資源は世界的に偏って産出している -

リン鉱石の世界の主要10カ国の算出量割合とコスト水準や技術レベルで採掘が可能な経済的埋蔵量割合などは次の通りです。中国、モロッコ・西サハラ、米国の4カ国で算出量と埋蔵量ともに約8割を占めているというのが実態です。
2008年5月に中国の四川省では、大地震により大きな被害が出ました。その1つがリン鉱石の生産停止で、供給不足により世界の市場では価格の高騰や肥料の争奪戦がおきました。






我が国でのリン鉱石の生産は、沖縄県の大島諸島の沖大東島(ラサ島)のグアノにおいて、ラサ島鉱業所が操業して産出していました。操業開始は1911年で年間約18万トンの鉱石を採掘にし、休山や操業再開を経て、第二次世界大戦の影響で1944年に閉山しました。なお、推定埋蔵量は約350万トンとされています。沖大東島は現在では、日本政府が米国に沖大東島射爆撃場として貸し出しているため、立ち入り禁止です。


ここでの注目点は、リン鉱石の産出は4カ国に偏っているということです。


- リンは全て輸入に頼っている不安定な資源 -

現在の日本やEU諸国では、全くリン鉱石は採掘されていません。日本のリン鉱石の輸入量は約77万トンです。


リンの消費量は、その国の食生活、経済構造、貿易依存度によって異なります。またリンの消費量はリン鉱石としてだけでなく、形を変えた需要として成立しています。これを「バーチャルリン鉱石需要量(virtual phosphorus ore requirement, VPOR)」と言います。
輸入される食料は、生産国では作物や家畜飼料の肥料としてリンが消費されています。輸入される飼料についても同様です。したがって食料や飼料の輸入は、間接的なリン鉱石の輸入と同じことになります。さらに肥料や化学製品としてリンを含む資材を輸入していることも間接的なリン鉱石の輸入と同じことになります。
我が国のバーチャルリン鉱石需要量を見積ると616万トンとなります。形をかえたリンの輸入量を含めると、リン鉱石としての輸入量の10倍近くになります。



同じ考え方に基づくものに「バーチャルウォーター」があります。食料を輸入している国も、その輸入食料を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものです。例えば、1kg のトウモロコシを生産するには1,800 リットルの水、牛肉1kg を生産するには20,000 リットルの水が必要です。食料の輸入は、形を変えて水を輸入していると言えます。淡水も地球規模では偏りがあり、慢性的な水不足の国や地域があります。地球規模での水問題を検討する際の1つの概念となっています。


中国など4カ国で約8割を占めるリン資源ですが、我が国はリン鉱石だけでなく様々な形でリンを必要としています。しかしそのリン資源も採掘可能な年数を概算すると約260年と考えられています。全てを輸入に頼り、多くの量を必要とする我が国では、リンの回収と再資源化などが進められています。後編はここまです。続編として、リンの回収やリサイクルと身近なリンの用途について紹介します。