やわらかサイエンス

大谷石 ~8世紀から続く身近な石材~(前編)

第110回担当:藤原 靖(2020.01)

大谷石(おおやいし)は栃木県宇都宮市大谷で採掘される石で、住宅の塀などで身近に使われているポピュラーな石です。大谷石は石材だけでなく、弘法大師が彫ったとされる磨崖仏、コンサートや映画の撮影に使われる地下の採掘場跡など、大谷石にまつわる話がいくつかあります。今回のやわらかサイエンスでは、大谷石について紹介します


大谷の地質

大谷石は、大谷一帯から採掘される流紋岩質角礫凝灰岩の総称です。日本列島がまだ海の中に大部分があった時代、今から1500万年前くらいですが、火山が噴火して噴出した火山灰や軽石などが海中に堆積して固まってできた岩石です。緑がかっているので緑色凝灰岩とも呼ばれています。


大谷町一帯に数平方kmの広さで数10mの厚みで分布しています。礫凝灰岩や緑色凝灰岩は東北地方にも多く分布している岩石です。


大谷石などの緑色凝灰岩にはゼオライト(zeolite)という鉱物が含まれています。ゼオライトは沸石類と呼ばれる鉱物の総称で、火山活動に関係して生成する鉱物です。成分と構造が異なるいくつかの鉱物種があり、クリノプチロライトやモルデナイトという鉱物名が付けられています。


ゼオライトには微細な孔がたくさん開いているため、イオンなどを吸着する作用や触媒作用を持っています。ネコのトイレとして使われる天然鉱物系の猫砂にはゼオライトが使われています。



左:大谷寺洞穴遺跡から発掘された縄文時代の人骨(大谷観音宝物館パンフレット)
右:大谷石と渾然一体に建てられた大谷寺

大谷の歴史

大谷石はやわらかく加工しやすい石材であるところから利用の歴史は古く、縄文時代には竪穴式住居の炉石として使われていました。大谷町にある大谷寺には縄文時代から弥生式土器時代まで使われた大谷寺洞穴遺跡が発見されています。遺跡では横臥屈葬の縄文時代のほぼ完全な人骨が発見されています。


大谷寺は通称大谷観音と呼ばれています。開基は弘法大師とされ、千手観音菩薩が本尊です。大谷観音は鎌倉時代に坂東三十三観音の19番霊場となり、以後、人々の信仰を集めてきました。


坂東三十三観音:足柄山や箱根の東一帯を坂東と呼び、源平の合戦後の供養や平和の祈願のため、西国三十三観音霊場にならって坂東三十三観音霊場として開設されました。1番が鎌倉の大蔵山杉本寺の杉本観音、13番が浅草の金龍山浅草寺の浅草観音、33番が千葉館山の補陀洛山那古寺の那古観音です。

千手観音菩薩は、平安時代の弘法大師の作と伝えられています。大谷石の岩肌に直接彫刻した後に表面に朱を塗り、粘土で細かな化粧をした上に漆を塗って金箔が押されていました。バーミヤン石仏との共通点が多く、実際にはアフガニスタンの僧侶により制作されたと考えられています。


バーミヤン石仏:アフガニスタンの首都カーブルの北西230kmの山岳地帯に位置するバーミヤン渓谷の2体の大仏。渓谷全体が古代遺跡群で世界遺産。近年タリバンにより破壊された。


左:大谷寺の外観(大谷観音パンフレット)
中:大谷寺千手観音菩薩(大谷観音パンフレット)
右:釈迦三尊・薬師三尊・阿弥陀三尊などの石仏群(大谷観音パンフレット)

大谷石 ~8世紀から続く身近な石材~ の前編はここまでです。岩と一体感のある大谷寺やシルクロードの雰囲気が漂う千手観音像は非常に印象的です。中編は石材利用の歴史や大谷石の採掘と運搬について紹介します。