斜面防災のための3次元解析
仮想ドレーンモデルによる地下水排除工の解析
有限要素法による3次元浸透流解析を行うにあたっては、分水界に境界条件を定める必要性から、数100~数km四方の大きな解析領域を対象とすることとなります。 この場合、ウェルドレーンや地下水排除工などのサイズが相対的に小さくなり、これらを具体的にモデル化しようとすると要素分割のために多くの労力が必要となり、また計算時間の増大を招きます。 仮想ドレーンモデルは、このような課題を克服します。仮想集水ボーリングからの排水量の算定
地すべり斜面において施工される集水ボーリングの効果を、仮想ドレーンモデルを用いて表現してみました。 図-1に解析モデルを示します。モデルの中央に地すべり土塊が分布していると仮定し、仮想集水ボーリングを地すべり土塊の中に配置しました。 ボーリング径は100mm、長さ50mとし、扇状に10度ピッチに7本配置しました。また、各地盤の透水係数は図中に示した値を用いました。仮想ドレーンモデルにおいては、集水ボーリングは有限要素としてモデル化する必要はなく、始点と端点の座標情報と削孔径、削孔速度を入力条件として与えるだけです。 なお、初期定常状態において既に集水ボーリングは設置済みとしました。 解析条件は、低地部側面において、地表高さ-5mの全水頭固定を行い、地表面には適当な地域のアメダスデータ(初期定常時は平均雨量、非定常時は日雨量)を参照して入力しました。
図-2に、仮想ドレーンモデルを用いて集水ボーリングを考慮したモデルと、無対策の場合の水位分布の比較を示します。 同時刻における水位上昇が集水ボーリング位置で抑制されていることから、仮想ドレーンモデルが適切に機能していることが確認できます。 ただし、降雨後における水位上昇を見ると、すべり土塊の上流側で水位が高い状態が解消されていません。 したがって、本解析で設定した集水ボーリングの配置は、すべり土塊と健岩部の境界位置の水圧を抑制、あるいは低下させる構造としては不十分であったことがわかります。

図-1 仮想集水ボーリングを配置した3次元解析モデル
排水構造を最適化するためには、設置位置やボーリングの数などを変化させ検討する必要がありますが、一般的な方法では、変更案に合わせて解析メッシュを修正する必要があり、多くの時間と労力を要します。 これに対し、仮想ドレーンモデルでは、メッシュを修正することなく、仮想集水ボーリングの位置や本数を変更するだけでよく、集水ボーリングの効果を最適化するための試算を容易に行うことができます。
解析で得られた総流出量、および各集水ボーリングの流出量を同図に示します。累積総流出量データからは、集排水された水量に対する排水計画の検討が可能となります。 また、ボーリング1本あたりの流出量も把握できるため、ボーリング本数の最適化や、目詰まり等による排水機能の低下に対するメンテナンス頻度の目安などを検討することができる。 このように仮想ドレーンモデルを用いた解析は、集水施設の設計や管理を支援するツールとなることが期待されます。

図-2 仮想ドレーンモデルを用いた解析結果